今更聞けないソーラーシェアリングの真実
農業と太陽光発電は両立できるのか

 

 

 再生可能エネルギー業界で働く皆さんにとって、太陽光発電の導入における「土地利用の競合」は避けて通れない課題です。特に、農地は食料生産という重要な役割を持つため、再エネ設備との両立が強く求められています。

 この課題を解決する切り札こそが「ソーラーシェアリング」(営農型太陽光発電)です。これは、農地の上部空間で発電を行い、その下で農作物を栽培し続けるという画期的な手法です。

 本記事では、ソーラーシェアリングの具体的な仕組み、農業と発電を成功させるための技術的・制度的戦略、そして営農継続の要件を詳細に解説いたします。この知識を活かし、食料安全保障とエネルギー安全保障を両立させる事業モデルを推進しましょう。

 

 

今更聞けないソーラーシェアリングの基本原理と構造

 

 

 ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)とは、農地の上に架台を組み、一定の間隔を空けて太陽光パネルを設置し、発電と営農を同時に行うシステムです。このシステムの核心は、「太陽光の分かち合い(シェアリング)」という考え方にあります。

 農作物が必要とする光(波長)と量を考慮し、残りの光で発電を行うという設計がなされます。これにより、貴重な農地を潰すことなく、再生可能エネルギーを導入することが可能となり、土地利用の効率を劇的に向上させます。

 

 

透過型パネル配置による農作物への光量調整

 

 

 ソーラーシェアリングの最も重要な技術的要素は、太陽光パネルの「透過率」と「遮光率」の設計です。パネルを隙間なく並べるのではなく、一定の間隔を空けて設置したり、透過性の高いパネルを使用したりすることで、農作物の生育に必要な光量を確保します。

 一般的に、作物にもよりますが、パネルによる遮光率を20%から40%程度に抑えることで、光合成に必要な光を十分に取り入れることが可能になります。パネルの角度や高さを調整し、時間帯や季節によって地面に落ちる光の量を最適化する技術が、農業と発電の両立を支える鍵となります。

 

 

高架式架台の構造と営農上のメリット

 

 

 ソーラーシェアリングに用いられる架台は、通常の太陽光発電設備よりも高く設計されます。これは、農作業を行うための十分な空間(高さ3.5メートル以上が目安)を確保し、トラクターなどの農業機械がスムーズに作業できるようにするためです。

 この高架式架台は、営農の継続を可能にするだけでなく、農作物に対して一定の日よけ効果や防風効果をもたらすという副次的なメリットも生み出します。特に高温になりやすい夏季において、適度な遮光は農作物の高温障害を抑制し、収穫量の安定化に寄与する可能性を秘めています。

 

 

農業と発電の両立を成功させるための営農継続要件

 

 

 ソーラーシェアリングが通常の太陽光発電と決定的に異なるのは、その設置が農地の一時転用という特殊な制度に基づいて認められている点です。

 そのため、発電事業者は、農業を継続し、農地の生産性を維持するという厳格な営農継続要件を満たし続けることが義務付けられています。この要件を理解し、遵守することが、事業成功の絶対条件です。

 

 

農作物生育への影響評価と収穫量の維持

 

 

 最も重要な営農継続要件は、パネル下の農地において、周辺の同様の農地と比較して、著しく収穫量が低下していないことを証明することです。具体的には、概ね20%以上の減収がないこと、または農作物の品質が低下していないことが求められます。

 この証明のため、事業者は定期的に農作物の生育状況や収穫量に関する詳細なデータを記録し、行政へ報告しなければなりません。作物の種類(日陰に強い作物、遮光が有利に働く作物など)を慎重に選定し、パネルの設計と栽培計画を最適化する技術力が求められます。

 

 

一時転用許可期間と事業計画の確実性

 

 

 ソーラーシェアリングの農地転用許可は、当初は3年など比較的短い期間で発行され、その後の営農状況の報告に基づいて許可期間が更新されていくのが一般的です。

 この許可更新を確実に受けるためには、単に営農継続の事実だけでなく、発電事業として安定した収益を上げ、農業収入と発電収入の双方から地域経済に貢献しているという事業計画の確実性を示すことが重要です。短期間での許可更新制度は、事業者に常に農業との両立を意識させるための仕組みと言えます。

 

 

ソーラーシェアリングが生み出す経済的な相乗効果

 

 

 ソーラーシェアリングの最大の魅力は、農業収入に加え、売電による発電収入という新たなキャッシュフローを生み出し、農業経営の安定化に貢献する点です。

 この経済的な相乗効果は、高齢化や後継者不足に悩む日本の農業にとって、大きなブレイクスルーをもたらす可能性を秘めています。

 

 

発電による安定的な農業外収入の確保

 

 

 農産物の価格は、天候や市場の状況によって変動が激しく、農業経営を不安定にする大きな要因となっています。ソーラーシェアリングによる発電収入は、FIT制度(固定価格買取制度)の下で長期的に安定しているため、農産物の価格変動リスクをヘッジする役割を果たします。

 この安定的な農業外収入を、農地の維持管理費や次世代の農業技術への投資に充てることで、農業経営全体を強化し、営農継続の意欲を高めることに繋がります。再エネの導入が、農業の未来を支える資本となるのです。

 

 

地域新電力と連携した地産地消モデルの構築

 

 

 ソーラーシェアリングで発電された電力を、地域内の工場や家庭で消費する「地産地消モデル」との連携も進んでいます。地域の新電力会社(PPS)と連携し、発電した電力を固定価格で売電するだけでなく、地域の電力需要家に直接供給することで、地域内でのエネルギー循環を生み出します。

 これにより、地域外への電力流出を防ぎ、地域経済内での富の循環を促進します。農業と再エネが一体となったこのモデルは、災害時の電力確保(レジリエンス)という観点からも非常に有効です。

 

 

土地利用競合問題の解決と食料安全保障への貢献

 

 

 再生可能エネルギーの導入拡大において、農地と発電施設の土地利用の競合は世界的な課題です。ソーラーシェアリングは、この競合を「両立」という形で解決し、同時に食料安全保障にも貢献するという、一石二鳥の役割を果たします。特に耕作放棄地が増加する日本では、この価値が非常に高まっています。

 

 

耕作放棄地や遊休農地の有効活用

 

 

 日本全国には、後継者不足などにより耕作放棄地や遊休農地が広がり、社会問題となっています。これらの土地をソーラーシェアリングに活用することで、農地としての機能を完全に失うことなく、再び手を入れ、農業を再開するきっかけを与えます。

 ソーラーシェアリング導入に伴う設備投資や管理体制が、耕作放棄地の解消と農地保全を促す起爆剤となり、土地の生産性を維持しながら再エネを導入するという、社会的な要請に応えることができます。

 

 

栽培作物選定の戦略と日陰耐性作物の可能性

 

 

 ソーラーシェアリングの成功は、パネル下の農作物選定に大きく依存します。一般的に、日陰に強い作物(葉物野菜、キノコ類など)が栽培されますが、近年では、適度な遮光が品質向上につながる茶葉や果樹なども試されています。

 さらに、パネルを垂直に立てる垂直型ソーラーシェアリングなど、太陽光の移動に合わせて影をコントロールする新しい技術も開発されており、より多様な作物の栽培が可能になりつつあります。この栽培作物の選定戦略は、地域の農業特性や市場ニーズを深く理解した上で実行される必要があります。

 

 

ソーラーシェアリング事業の計画と実現に向けた戦略的視点

 

 

 ソーラーシェアリングは、農業と発電という全く異なる分野の知識が求められる複合的な事業です。再エネ業界の専門家は、単に発電効率を追求するだけでなく、農業経営の視点を取り入れた戦略的な計画を策定しなければ、営農継続要件を満たせず、事業が破綻するリスクを負います。多角的な連携が事業成功の鍵です。

 

 

農業法人・農家との長期的なパートナーシップ構築

 

 

 ソーラーシェアリング事業の最も重要な成功要因は、土地所有者や実際に営農を行う農業法人・農家との強固で長期的なパートナーシップです。営農継続要件を満たすためには、発電事業者が営農に無関心であってはならず、農作業のノウハウを共有し、協力して作物の生育を最適化する体制が不可欠です。

 発電事業者が農作業の一部を担う、あるいは発電収益の一部を農業の設備投資に充てるなど、利益を共有し、共にリスクを負う協力体制を構築することが、ソーラーシェアリングを単なる発電事業に終わらせないための基本戦略です。

 

 

地域特性に合わせた柔軟な設計と環境配慮

 

 

 土地の傾斜、日射量、風速、そして栽培する作物の種類や農作業の方法は、地域によって大きく異なります。そのため、ソーラーシェアリングの架台の高さ、パネルの隙間、設置角度といった設計は、一律ではなく、地域特性に合わせて柔軟に変更する必要があります。

 また、架台の基礎工事や土壌への影響を最小限に抑えるなど、環境への配慮も重要です。ソーラーシェアリングは、再エネの導入であると同時に、持続可能な農業を支えるインフラであることを忘れてはなりません。

 

 

まとめ ソーラーシェアリングは食料とエネルギーの両立を実現する

 

 

 ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)は、再生可能エネルギーの導入拡大が直面する土地利用の競合という大きな課題に対し、農業と発電を両立させることで応える、極めて戦略的なソリューションです。

 今更聞けない基本として、その成功は、農作物の収穫量を維持するという営農継続要件の遵守と、発電収入による農業経営の安定化という経済的な相乗効果の実現にかかっています。

 再エネ業界のプロとして、ソーラーシェアリングを単なる発電事業ではなく、食料安全保障とエネルギー安全保障の双方に貢献する持続可能な開発モデルとして捉え、農業法人との強固な連携のもと、その普及を強力に推進していくことが、私たちの使命となるでしょう。農地と再エネの未来を共に切り開きましょう。

 

 

 

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