「屋根は貸すだけでタダになるらしい」「電気代が下がると聞いたけど仕組みが分からない」――オンサイトPPAの営業を受けたとき、こんな声が現場から上がります。本記事は〈PPAモデルって結局どう動くの〉という疑問に絞り、契約構造から料金の成り立ち、リスク、国内外の最新事例までを一歩ずつ解説します。専門用語をできるだけ排し、再エネ業界に関わるすべての方が今日から語れる内容を目指しました。

PPAモデルの基礎をゼロから整理

PPA(Power Purchase Agreement)とは「発電事業者と需要家が結ぶ長期電力購入契約」のことです。需要家側は初期投資なしで再エネ電気を受け取り、発電側は長期の売電先を確保して資金を調達できる仕組みとして広がりました。

二つの主流形態

オンサイトPPA 需要家の屋根や遊休地に発電設備を設置し、構内線で直接電気を供給する方式。配電網をほぼ通らないため託送料がかからず、系統混雑にも左右されにくいメリットがあります。

オフサイトPPA 発電所は遠隔地にあり、系統を経由して電気を届ける方式。FITやFIPとは分離した「トラッキング電証」などで環境属性を需要家へ紐付けます。大量需要や追加性を重視する企業向きです。

PPAが生まれた背景

二〇一〇年代に再エネコストが急落した一方、電力会社の固定買取では市場価格と乖離が生じました。需要家と発電家を直接つなぐPPAは、このギャップを埋めつつ、投資コストを外部化できる手段として急速に普及しました。

契約フローを3ステップで理解

① 需要家と事業者のマッチング

屋根面積や使用電力量をオンライン計算し、想定発電量・単価・契約年数をパッケージ化。オークションや仲介プラットフォームも伸びています。

② SPV設立とファイナンス

専用会社(SPV)が設立され、プロジェクトファイナンスで資金を調達。需要家は電気料金で返済をサポートする形です。

③ 竣工後の運転保守

O&M(運転保守)は発電事業者が責任を負い、パフォーマンス保証を付けるケースが一般的。需要家は設備故障リスクを負わずに再エネを利用できます。

料金のひみつを解き明かす

LCOE+リスクプレミアムが基本

PPA単価は「LCOE(均等化発電原価)+資金調達コスト+リスクマージン」で構成されます。オンサイトの場合は託送料が不要なため、系統売電より2〜3円/kWh安価になることも珍しくありません。

契約期間が長いほど単価は低下

十五年と二十年を比較すると資金回収期間が延びるため、資本コストが薄まり単価が0.5〜1円下がる傾向があります。ただし需要家の入居期間や設備更新計画と整合が必要です。

インフレ連動と固定単価

欧州ではCPI連動で単価調整するケース、日本では固定単価+再エネ賦課金相当額をディスカウントするモデルが増えています。

PPA導入メリットを数値で示す

コスト削減

首都圏の物流倉庫3MW案件で、従来電力単価14円がPPA単価11円となり、年間1200万円削減。二〇年契約で単純累計二億円以上の効果が見込まれました。

CO₂削減

同案件では再エネ化率75%達成により、年間約1800トンの排出を削減。SBT目標の約三割を一気にクリアしました。

BCP向上

蓄電池併設タイプでは停電時に非常用負荷を六時間以上維持。レジリエンス評価で取引先ランクが向上した事例があります。

課題とリスクを正面から見る

信用リスク

需要家の倒産やテナント退去で電気購入が止まると、SPVが債務不履行に陥る恐れ。解約条項と保険で分散が必要です。

屋根荷重と老朽化

築古倉庫では耐荷重不足で補強費用が追加発生するケースも。事前の構造計算と瑕疵担保契約が重要です。

電力消費パターン変動

省エネ改修や生産停止で需要が減ると過剰発電が発生。余剰電力の卸売や追加需要家マッチングの仕組みが求められます。

国内外の注目事例

国内:大手コンビニチェーン

全国千店舗の屋根に合計百二十MWを設置。年二億kWhをオンサイトPPAでまかない、電気料金は平均一割削減しました。

米国:IT企業キャンパス

二百MWのオフサイトPPAを締結し、仮想的に100%再エネ電力を達成。REC取引で環境属性を証書化し、CDPスコアを最高ランクへ引き上げました。

豪州:農業用マイクログリッド

遠隔農場へ三〇kW太陽光と蓄電池を導入。PPA料金は従来ディーゼル発電より二分の一に低減し、燃料輸送コストもゼロになりました。

制度との関係をおさらい

FIT・FIPとの併用可否

オンサイトPPAは自家消費扱いのためFIT売電は不可。オフサイトPPAは非FIT電源が前提ですが、FIPプレミアムを併用し需給調整市場へ出力できるモデルも検討されています。

税制優遇

賃料収入が発生しない場合でも、建物附属設備の固定資産税軽減やグリーン投資減税の適用が可能です。

将来展望と業界が備えるポイント

複合PPAの台頭

太陽光+風力+蓄電池をセットにして変動を平準化する「ハイブリッドPPA」が欧州で拡大。日本でも北海道×関東連系など地域間融通を視野に動き始めています。

デジタル計量とブロックチェーン

スマートメーターとトークン化証書で分単位の発電属性を追跡。環境価値をリアルタイム決済する技術が登場しています。

脱炭素規制との連携

CBAMやSCOPE3開示が厳格化する中、PPA電力の「追加性」「地域性」が評価指標に直結。証拠データをどう示すかが競争軸になります。

まとめ

PPAモデルは「屋根を貸して電気を買う」シンプルなイメージの裏に、長期契約・ファイナンス・リスク分担といった多層の仕組みが隠れています。基礎を押さえれば、営業提案の真偽や自社利用の適否を的確に判断できます。まずは自社の屋根面積と電力使用パターンを洗い出し、信頼できる事業者と小規模実証から始めてみましょう。

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