今更聞けないエネルギー自給率
日本の電力はどこから来ているのか

 

 

 再生可能エネルギー業界で働く皆さんにとって、「エネルギー自給率」という言葉は身近なテーマではないでしょうか。日本は世界でも有数のエネルギー資源に乏しい国であり、そのことが再エネ導入の大きな理由の一つになっています。

 しかし、具体的に日本のエネルギー自給率がどの程度で、私たちが日々使っている電力がどこから来ているのか、正確に説明できる人は意外と少ないかもしれません。

 この記事では、日本のエネルギー事情の基本から、再エネが果たすべき役割までを、分かりやすく掘り下げていきます。

 

 

日本のエネルギー自給率の深刻な現状

 

 

 エネルギー自給率とは、国内で供給される一次エネルギー(石油、石炭、天然ガス、水力、太陽光など)のうち、国内で生産されたエネルギーが占める割合のことです。この数字が高ければ高いほど、他国からのエネルギー輸入に頼らず、安定したエネルギー供給が可能になります。

 日本は2010年度まで、原子力発電を国産エネルギーとして計上することで、エネルギー自給率が20%前後を維持していました。しかし、2011年の東日本大震災以降、多くの原子力発電所が停止したことにより、自給率は一時、わずか6%程度まで低下しました。

 その後、一部の原子力発電所の再稼働や、再生可能エネルギーの導入拡大によって、わずかに回復傾向にはありますが、それでもOECD諸国の中でも最低水準にあるのが現状です。

 この低い自給率は、日本のエネルギー安全保障にとって大きなリスクです。世界の情勢や産油国の動向によって、エネルギーの価格が大きく変動したり、供給が途絶えたりする可能性を常に抱えているのです。これは、私たちの日常生活だけでなく、製造業をはじめとするあらゆる産業活動に直接的な影響を及ぼします。

 

 

なぜ日本のエネルギー自給率は低いのか

 

 

 日本のエネルギー自給率が低い最大の理由は、国土が狭く、石油や天然ガス、石炭といった化石燃料の資源がほとんど産出されないことにあります。これらの燃料は、日本のエネルギー供給の約8割を占めており、そのほとんどを海外からの輸入に頼っています。

 化石燃料は、中東やオーストラリア、アメリカなど特定の国や地域に偏在しているため、地政学的なリスクに非常に脆弱です。紛争や政情不安、輸送ルートのトラブルなどが起きれば、供給が滞り、価格が急騰する可能性があります。実際に、過去にはオイルショックのようなエネルギー危機が日本経済に深刻な打撃を与えた歴史があります。

 

 

日本を支える3つの主要エネルギー源

 

 

 では、私たちが日々使っている電力は、具体的にどのようなエネルギー源から作られているのでしょうか。日本の電力は、主に「化石燃料」「再生可能エネルギー」「原子力」の3つの電源によって構成されています。これを「エネルギーミックス」と呼び、国は将来の望ましい比率を目指して政策を進めています。

 

 

火力発電の圧倒的なシェア

 

 

 日本の電力供給において、現在も最も大きな割合を占めているのが火力発電です。液化天然ガス(LNG)、石炭、石油を燃焼させることでタービンを回し、発電します。特にLNG火力発電は、石炭や石油に比べて燃焼時のCO2排出量が少なく、クリーンなイメージを持たれていますが、依然として温室効果ガスを排出する化石燃料に依存していることに変わりはありません。

 火力発電は、天候に左右されずに安定して大量の電力を供給できる利点があります。しかし、燃料のほとんどを輸入に頼っているため、国際情勢によって燃料費が変動し、私たちの電気料金にも直結します。また、CO2を大量に排出するため、地球温暖化の主要な原因となっています。

 

 

安定供給への課題を抱える原子力発電

 

 

 原子力発電は、ウランを核分裂させて生じる熱を利用して発電します。少量で大きなエネルギーを得られるため、エネルギー自給率の向上に貢献すると期待されていました。また、発電時にはCO2を排出しないため、脱炭素社会の実現に向けた有効な手段とされています。

 しかし、福島第一原子力発電所の事故以降、安全性への懸念から国内の原子力発電所の多くが停止しました。再稼働には厳しい安全基準を満たす必要があり、国民的な議論も続いています。現在の日本の電力供給に占める割合は限定的であり、今後どの程度活用していくかは大きな課題となっています。

 

 

成長が期待される再生可能エネルギー

 

 

 再生可能エネルギーは、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなど、一度利用しても自然の力で再生されるエネルギー源です。これらのエネルギーは、国内でほぼ無限に得られるため、自給率の向上に直結します。

 特に太陽光発電は、FIT(固定価格買取制度)などの政策によって急速に普及が進みました。風力発電も、陸上だけでなく洋上での大規模開発が加速しており、今後の主力電源の一つとして期待されています。

 再エネは、化石燃料と比べてCO2を排出しないため、気候変動対策の観点からも非常に重要です。しかし、太陽光や風力は天候によって発電量が変動するという「不安定性」が課題とされています。

 この課題を解決するため、蓄電池やスマートグリッドといった技術の開発と導入が、再エネ業界の皆さんにとって最も重要なミッションの一つとなっています。

 

 

エネルギー自給率と再エネ業界の使命

 

 

 日本のエネルギー自給率を高め、安定した電力供給を実現する上で、再生可能エネルギーの普及は不可欠です。それは、単に発電量を増やすこと以上の意味を持っています。

 

 

地産地消の分散型エネルギー社会の構築

 

 

 これまでの日本のエネルギーシステムは、大規模な発電所で電力を一括して作り、それを全国に送電するという中央集中型でした。しかし、再生可能エネルギーは、各地域で太陽光や風力といった資源を活用して発電できる「分散型」のエネルギーシステムを可能にします。

 これにより、地域ごとに電力を自給自足する「地産地消」のモデルが実現します。災害時にも、大規模な送電網が寸断されても、各地域で電力を確保できるため、レジリエンス(回復力)の高い社会を築くことができます。これは、エネルギー安全保障の強化に直接的に貢献するものです。

 

 

脱炭素社会の実現と国際貢献

 

 

 地球温暖化対策は、国際社会全体の共通課題です。日本が「2050年カーボンニュートラル」を掲げているように、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることは、持続可能な未来のために欠かせません。この目標を達成するためには、CO2を排出する化石燃料から、CO2を排出しない再生可能エネルギーへの転換が不可欠です。

 再エネの普及は、日本のエネルギー自給率を高めるだけでなく、国際的な環境問題への貢献という側面も持っています。再エネ業界の皆さんの仕事は、日本だけでなく、世界の脱炭素化を牽引する重要な役割を担っているのです。

 

 

経済の活性化と新たな雇用創出

 

 

 再生可能エネルギーは、新たな産業やビジネスモデルを生み出す可能性を秘めています。発電設備の開発・製造、施工・メンテナンス、電力のマネジメント、さらには水素やアンモニアといった次世代エネルギーへの応用など、多岐にわたる分野で技術革新と雇用創出が期待されています。

 日本の優れた技術力を活かして、再エネ分野で世界をリードすることは、日本の新たな成長戦略にもつながります。再エネ業界は、単なる環境産業ではなく、日本の経済を牽引する重要な柱として、ますますその存在感を高めていくでしょう。

 このエネルギー転換の時代において、再エネ業界の皆さんが持つ専門知識と情熱は、日本の未来を形作る力となります。日々の業務が、エネルギー安全保障の向上、地球環境の保護、そして経済の活性化に貢献していることを再認識し、誇りを持って取り組んでいってください。

 

 

まとめ:再エネは日本の未来を切り開く鍵

 

 

 日本の低いエネルギー自給率と、化石燃料への依存という現状は、決して楽観できるものではありません。しかし、この課題を克服するための最も有力な手段が、再生可能エネルギーであることは間違いありません。太陽光や風力といった国内資源を最大限に活用し、エネルギー自給率を高めることは、日本の安全保障と経済を強化する上で不可欠な道筋です。

 再エネ業界の皆さんの仕事は、単に電力を供給するだけでなく、日本を脆弱な輸入依存体制から脱却させ、持続可能な社会を築くという大きな使命を帯びています。この重要な役割を果たすためにも、最新の技術動向を学び、業界の連携を深めながら、次世代のエネルギーシステムを創造していきましょう。

 

 

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