「実質再エネ100%達成」と聞くと巨大メガソーラーや風車のイメージが浮かびますが、実際には再エネ証書Jクレジットという“見えない電気”が大きな役割を担っています。しかし現場では「非化石証書とグリーン証書は何が違うのか」「Jクレとカーボンクレジットは別物なのか」など疑問が山積み。本稿では制度の誕生背景から種類・購入手順・追加性・国際比較・報告義務・価格動向・将来課題までを網羅的に解説します。専門用語をできる限り平易に置き換え、再エネ業界の担当者がすぐ説明できるレベルまで理解を深めることを目指します。

再エネ証書とは何か 基本を押さえる

再エネ証書は「電気に乗っている環境価値」を切り離し、取引できるようにしたデジタル商品です。物理的な電気は系統で混ざりますが、属性を別管理することで需要家が再エネ利用を証明できます。

主要3タイプ

非化石価値取引市場証書 日本卸電力取引所(JEPX)で上場。FIT電源由来が大半で、発電所IDと発電年を紐付けています。
グリーン電力証書 民間団体が運営。バイオマスや水力など再エネ由来電気の「グリーン度」を証書化し、RE100報告に利用可能です。

I-REC/GO 海外標準のエネルギー属性証明。多国籍企業が工場単位で再エネ導入をカウントする際に用いられます。

トラッキングとアンバンドリング

トラッキングは「どの発電所の何月何日に発電した電気か」を追跡すること、アンバンドリングは「電気」と「環境価値」を切り離す作業を指します。FIT証書はトラッキングなし、実需家向けはトラッキング付きが推奨という違いを覚えておきましょう。

Jクレジットとカーボンクレジットの違い

Jクレジットは温室効果ガス排出削減・吸収量を国が認証し、クレジット化する制度です。森林吸収や省エネ設備更新など多様なプロジェクトが対象で、「国内オフセット」として利用されています。一方、ボランタリーカーボンクレジット(Verra・Gold Standardなど)は国際基準の自主市場で、再エネ発電・メタン回収などが中心です。

用途の違い

再エネ証書はScope2排出(購入電力)を実質ゼロにするために使う一方、Jクレジットは主にScope1・3排出や製品カーボンフットプリントのオフセットに用いられる点が異なります。

追加性の論点

証書は既に稼働する発電所の環境価値を転売するため「追加性が低い」と批判されがちですが、Jクレジットは新規削減・吸収が前提なので比較的追加性が高いと評価されます。

実質100%再エネのカラクリを分解

マッチング基準

RE100では「年間総量マッチング」だけでなく「同一エリア」「同一年度」など条件付きマッチングを推奨。時間一致(24/7マッチング)を目指す企業も増えています。

残余ミックス

証書を購入しない電力は「残余ミックス」(系統に残った属性の平均値)として計算され、国内では化石比率7割程度。証書不足時は残余ミックスが排出係数を押し上げるため、追加発行量が市場価格に影響します。

市場価格とコスト試算

非化石証書価格推移

2025年2月時点でFIT非化石証書は1MWhあたり約250円、非FITトラッキング付きは1000円を突破。脱炭素宣言の波で需要が伸び、価格は上昇基調です。

Jクレジット価格

国内森林吸収クレジットは1トンCO₂あたり1500〜3000円、省エネ改修プロジェクトは500〜1000円が相場。プロジェクト潤沢度で開きがあります。

費用モデルケース

年間電力5GWhを実質再エネ化する場合、FIT証書で125万円、非FITで500万円。追加性重視のI-RECを選ぶと800万円程度。コーポレート目標と予算のバランスが鍵です。

購入フローと社内手続き

① ニーズ把握

Scope2削減目標とレポート要件(CDP/RE100/TCFD)を確認。必要証書量を算定します。

② 証書タイプ選定

追加性・地域性・コストを比較し、ハイブリッド購入(FIT+非FIT)も検討。

③ ブローカー/取引所経由購入

JEPXまたは民間プラットフォームで入札。大口は相対契約が主流です。

④ 証書登録・償却

再エネ価値を自社口座へ移転し、レポート提出前に償却(引き当て)を完了させます。

国際比較と制度アップデート

欧州GOシステム

EUの保証証(GO)は統一プラットフォームで転売可能。時間一致制度が2027年に義務化予定で、価格プレミアムが発生しています。

米国REC市場

州別のRPS義務に伴い、ClassⅠRECは50ドル/MWhを突破。長期PPAとセット販売が主流です。

日本の次期改正案

経産省は2026年度に「時間帯別非化石証書」を導入し、太陽光昼余剰と夜間不足を価格で調整する方針を公表しています。

リスクと留意点

二重計上リスク

同一証書を複数企業が使用すると排出削減量が水増しされてしまうため、ブロックチェーン台帳での一元管理が検討中です。

グリーンウォッシュ批判

証書依存度が高い企業は「実体なき脱炭素」と批判されがち。追加投資と組み合わせることがブランド向上に不可欠です。

価格変動リスク

需要急増で単価が3倍になった欧州事例も。長期目標がある場合はForward契約や自家発電投資でヘッジを検討しましょう。

まとめ

再エネ証書とJクレジットは「環境価値を可視化して取引する」仕組みであり、実質再エネ化やカーボンオフセットを迅速に実現する強力なツールです。追加性・コスト・報告基準を踏まえ、自社に最適なポートフォリオを描くことが成功の鍵となります。まずは年間電力と排出量を棚卸しし、証書と実投資を組み合わせたロードマップ策定から始めてみましょう。

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